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【第1章:はじめに ― 消費税ゼロは“全員が得”なのか?】
「もし、消費税が0%になったら──」
そんな話を聞くと、多くの人は反射的に「やった!生活が楽になる!」と思うかもしれません。食料品、日用品、外食、電気代…。日常生活のあらゆる場面で、消費税という“見えない上乗せ”が私たちの財布からお金を引いていきます。
だからこそ、消費税がゼロになると聞けば、「負担が減って助かる」「もっとお金が自由に使える」と感じるのは当然です。これは個人レベルの感覚としては間違っていません。実際、消費税は逆進性の高い税制(=低所得層ほど負担割合が大きい)と言われており、社会的にも議論の多い存在です。
でも──
それって、本当に“全員が得する”話なんでしょうか?
特に、日々現場で働く事業者、たとえば個人経営の飲食店、小売業、フリーランス…。そんな人たちにとって、**「消費税ゼロ」=「利益が増える」**とは限らないどころか、むしろ「損をする」ことすらあるのです。
この記事では、消費税がゼロになることで生まれる“意外な損”について、免税事業者や設備投資の視点から掘り下げていきます。税制の話というと難しく感じるかもしれませんが、できるだけ現場感覚に寄せて、分かりやすく説明します。
一見得に見える制度変更が、どうして“痛手”になるのか──
ぜひ最後までお付き合いください。
【第2章:消費税の基本 〜 お店は“預かってるだけ”】
まず前提として、消費税は「お店の取り分」ではありません。たとえば飲食店で税込1,100円のランチを販売したとします。このうち100円は消費税(10%)であり、お店が「お客さんから一時的に預かって、後で国に納める」お金です。
消費税は、「消費者」がお金を払って、「事業者」が納める仕組み。つまり、「誰の負担か?」という視点では消費者が、「誰が支払うか?」という視点では事業者が納税者になります。
事業者は、売上時に受け取った消費税と、仕入れや経費で支払った消費税との差額を、税務署に納めます。これを仕入税額控除と呼びます。
- 売上で預かった消費税:+100万円
- 仕入で払った消費税:−40万円
- 国に納める消費税:60万円
これが「課税事業者」の基本的な仕組みです。
【第3章:免税事業者とは?“預かったまま”でもいい仕組み】
ところが、一定の条件を満たす小規模事業者は、消費税を納める義務がありません。それが「免税事業者」です。
たとえば、以下のような条件が該当します:
- 前々年の課税売上高が1,000万円以下
- インボイス制度に登録していない(=適格請求書発行事業者ではない)
免税事業者は、消費税分をお客さんから受け取っても、それを国に納める必要がありません。たとえば1,100円の商品を売れば、そのまま1,100円が売上になります。
これって実は、かなり“お得な構造”です。課税事業者なら100円を納税するところを、免税事業者は懐に入れることができるのです。
とくに飲食業や美容室、個人経営の小売業など、人件費と仕入れ以外に経費が少ない業種では、この“消費税分の上乗せ利益”が事業継続の支えになっているケースもあります。
【第4章:消費税ゼロになると、売上が減る?】
ここで本題に戻りましょう。もし、消費税が0%になったらどうなるのか?
たとえば今、税込1,100円で商品を売っていた免税事業者がいたとします。このうち100円は“消費税相当”という扱いですが、免税のため納税義務はなく、すべて懐に入っています。
ところが、税率が0%になれば、そもそも消費税分の上乗せができなくなります。
- これまで:1,100円の売上(実質1,000円の商品+100円の税)
- 税率0%後:1,000円の売上(消費税ゼロ)
つまり、何も悪いことをしていないのに、売上が100円減る。これは、**事業者にとって明確な“実入りの減少”**です。
「消費税がなくなったら物が安くなって売上が伸びる!」という楽観的な予測もあるかもしれませんが、現実には**「値下げ圧力」だけが先に来る**可能性が高く、単価が下がる一方で売上は横ばい、利益が目減り…という事態も十分に起こりえます。
【第5章:でも支出側には消費税がかかり続ける】
ここからがさらに重要なポイントです。仮に「食料品の消費税だけが0%」になった場合でも、設備や備品、サービスには通常どおり消費税がかかります。
たとえば、
- 店舗の改装費
- 調理器具や什器の購入
- POSレジ、会計ソフトの利用料
- 広告宣伝費、外注費
こういったコストには、基本的に10%の消費税が上乗せされます。
ここで差が出るのが「免税事業者か課税事業者か」。
課税事業者なら、支払った消費税は“仕入税額控除”で戻ってくるのに対し、**免税事業者は、全額を“経費として支払うだけ”**になります。
つまり、売上側では消費税が取れないのに、支出側では消費税を払わなければならないという「片側だけ損」な状態になるのです。
【第6章:実際に困るのはこんな人たち】
「消費税ゼロで損をする」と聞いても、ピンと来ない人も多いかもしれません。そこで、実際に影響を受けやすい立場の人を具体的に見ていきましょう。
① 免税事業者の飲食店、小売店
個人で経営している定食屋さん、町のパン屋、八百屋、洋服屋さん──いずれも前年度の売上が1,000万円以下なら免税事業者の可能性が高いです。これまで「税込価格」で販売していた分の消費税分がまるごと利益になっていたわけですが、税率ゼロになればその“隠れ利益”が消えます。
しかも、厨房機器やエアコンの買い替え、店舗の看板や棚の新調など、設備投資には変わらず消費税(10%)がかかる。売上は減り、支出は変わらず──収支は確実に悪化します。
② フリーランスのクリエイター・エンジニア
取引先が消費税ゼロになったら、見積金額の「税込・税抜」区別があいまいになります。インボイス制度に未登録のままだと「この価格には消費税が含まれているのか? いないのか?」が問われるシーンが増加。単価の交渉力が下がり、報酬が下振れするリスクが高まります。
③ 設備投資を必要とする小規模事業者
たとえば老舗の蕎麦屋さんが、「そろそろ店の内装をリニューアルしたい」と思っても、500万円かかる工事のうち約50万円は消費税です。売上側に税金を上乗せできない以上、支出のうち税金だけがどんどん重くなる構造に陥ってしまいます。
【第7章:それでも“得する”人とは誰か?】
一方で、「消費税ゼロ」で恩恵を受ける人たちもいます。誰もが一律に損をするわけではありません。
① 一般の消費者
何と言っても最大の恩恵を受けるのは「生活者」です。税抜110円のパンが110円で買えていたものが、税率ゼロなら100円になります。値上がり続きの時代に、支出が1割減るというのは大きいです。
特に食料品や日用品の比率が高い家庭では、実質的な可処分所得の改善にもつながります。
② 課税事業者の中堅・大企業
大企業はすでに課税事業者として、消費税の仕入控除・納付を仕組みとして運用しています。税率がゼロになれば、そもそも納税額が減る。利益率がわずかに改善することもあるでしょう。
また、資金繰りの面でもプラスです。売上に対する納税負担が減れば、その分を人件費や設備投資に回せます。
【第8章:制度に振り回されないために】
ここまでで、「消費税ゼロが全員にとってハッピーな話ではない」ということがわかってきたと思います。
でも、私たちは制度の変更に翻弄されるだけではなく、「自分の立場でどう準備するか」を考える必要があります。
✔ 小規模事業者の場合
- 「免税の恩恵」に頼りすぎない
- 消費税分の利益がなくなる前提で価格設計を見直す
- 長期視点で「課税事業者化」も視野に入れる
✔ フリーランス・個人事業主の場合
- インボイス制度への登録・非登録の影響を再確認
- 「税込・税抜」の見積もり明記を徹底する
- 単価を守るための交渉力を強化する
✔ 一般家庭の場合
- 税率変更に伴う「価格の変動」に敏感になる
- 本当に得しているのか? 家計簿で効果をチェック
変化に合わせて、自分の行動を変える力が問われる時代です。
【第9章:まとめ ― 表面の“得”に騙されない】
「消費税がゼロになる」というニュースが出れば、SNSはきっと歓喜の声で溢れます。
でも、事業者の目線で見ると、その裏には静かに削られていく利益や、じわじわ増える支出が潜んでいます。
- 売上が減る
- 仕入税額控除が使えない
- 設備や外注にかかる税負担が重くなる
これらは、消費者として生きているだけではなかなか気づけない「裏側の現実」です。
制度がどう変わっても、重要なのは「仕組みを理解して、自分の損得を冷静に見極めること」。そうすれば、世の中の変化に一喜一憂することなく、自分のペースで備えを進めていけるはずです。
【おわりに:損をしない人になるために】
「消費税ゼロになったら嬉しい!」
──この素直な感情を否定するつもりはありません。
でも、喜ぶ前にほんの少しだけ立ち止まって、「自分の立場ではどうなるんだろう?」と考えてみてください。
それだけで、周囲より一歩先を行く“損をしない人”になれます。



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